第七話「【出張ドッグシャンプー】辛い現実から逃げることのできない夜」続きです。
同僚とのトラブルから数日後、上司から小さな会議室に呼び出された。
ノックをして扉を開けると、上司が窓を背にひとりで座ってる。
夕方の西日が眩しく、表情を窺い知ることはできない。
それを察したのか彼はおもむろに立ち上がり、ブラインドを降ろしながらボクに座るように促した。
少し薄暗くなった室内。
重苦しい空気が淀んでいるのを感じながら、ボクは彼の斜向かいの椅子に座った。
「何の話か分かるよね?」
彼はそう言ってから腰かけた。
ボクは黙ってうなずく。
「今回のことは、社内でも問題視している。」
「○○君からも話を聞いたんだ。」
「言い過ぎたと反省していたよ。」
それを伝えられても、ボクの心には何も響かなかった。
「君が辛いのも分かるが、うちは技術力が売りの会社だ。」
「彼のようなエンジニア達のおかげで成り立っているのは、君も理解してるよね。」
「君は営業マンだろ。お客さんとエンジニアの橋渡しをするのが仕事なんだから、我慢してくれ。」
ボクはその言葉を聞いて愕然とした。
「君は小間使いだ!」と面と向かって言われたようなものだ。
自分なりにこれまで積み上げてきた物が、音を立てて崩れ落ちるのを感じた。
ボクの存在価値はここにはない・・・
上司である彼は、ボクの為にではなく、会社の為にまだ何か話している。
ボクの耳には何も入ってこない。
小く薄暗い会議室。
絶望感に包まれた時間だけが無意味に流れてゆく。
第八話「【出張ドッグシャンプー】会社にいる存在価値を失った絶望感」を最後まで読んでいただきありがとうございました。
この続きは第九話で。
そして最後に。
終身雇用が崩壊した今の時代。自分の存在価値を失ってまで会社に留まるのは時間の無駄と考えたボクは、雇われずに時間を有意義に使い、自由に働くことを選びました。それが出張ドッグシャンプーの仕事です。
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